同志社香里オルフォイスグリークラブ 創立75周年記念演奏会に寄せて

2026年9月13日(日) いずみホール

シャルル・グノー(1818-1893)は、フランス音楽史においてベルリオーズの巨大なオーケストレーションからフォーレの祈りの音楽へと橋渡しをした作曲家として位置づけられています。オペラ「ファウスト」の成功によってフランスを代表する作曲家となった彼の人生は、しかし栄光だけでは語れません。普仏戦争の混乱の中でロンドンへ渡った1871年、妻子をパリに残したまま約三年間世俗の情欲に溺れ、そのスキャンダルはパリ社交界を騒がせました。

Messe brève No. 5 “aux séminaires”(神学校のためのミサ曲)が作曲されたのは、まさにその1871年のことです。男声三部合唱とオルガンという簡素な編成に、グレゴリオ聖歌の影響を受けた平明な旋律が全体を支配しています。一見「習作」と映りかねないこの禁欲的な様式は、しかし指揮台に立つ者には別の顔を見せます。突如としてオペラのアリアを想わせる朗々たる旋律が立ち上がるのです。ここにグノーという人間の本質が宿っています——禁欲を選んでいても、劇場人としての本能は抑えきれません。

その後、家族との断絶、訴訟、そして晩年の宗教音楽へ向き合う時間を経て、逝去の半年前に書かれたのが O Divine Redeemer(神聖なる救い主よ)です。「私を退けないでください」「私の罪を思い出さないでください」そして「死から守ってください」という切迫した祈りです。ここではもはや禁欲の仮面も、劇場人の本能を隠す必要もありません。22年前のミサ曲で一瞬だけ顔を出した人間の声が、この曲では全編にわたって解放されています。信仰を持ちながら罪を犯した人間の、赦しへの旅なのです。

オルフォイスグリークラブで初めてミサ曲を歌い、恩師・西邨辰三郎先生に導かれて京都三条烏丸の平安教会の聖歌隊で歌った少年が、60年の時を経て今夜この指揮台に立ちます。2000年12月31日——20世紀最後の日に洗礼を受けた私は、音楽を通して導きの恵みを覚えます。

創立75周年を迎えるオルフォイスグリークラブOBの歌声と共に、かつて聖職者になることを夢見るほどの信仰を抱いたグノーの楽曲と、晩年の懺悔と祈りの曲が、いずみホールいっぱいに響き渡ることを願っています。

2曲の楽曲解説はこちらです