Offertorio Requiem by Bob Chilcott 和訳

1. Offertorium ☆奉献唱☆

 奉献・・・辞書を引くと「パンと葡萄酒を聖壇に捧げ、イエス・キリストへの感謝を示す言葉」とあります。
 しかし、Chilcott先生はこの曲の曲調に「Modetate tempo,but with a sence of urgency 中庸なテンポで、しかし切羽づまった雰囲気で」と記しています。(urgency=緊急(性)、切迫(感)、切羽詰まっている様子[状態]。)
 「感謝」と「切迫」て矛盾しているように思いませんか。
 この乖離は1960年代のカトリック教会の指導者たちが「現代に見合った教会」を目的として多くの見直しを図った第2バチカン公会議を境として、ミサのとらえ方に大きな変化があったことに起因するのではないかと思わうのです。
 この公会議以前のミサは。感謝と賛美だけでなく、我が罪を贖う意味があり、中世の罪=地獄的煉獄といった思想の影響が強く反映されていたと考えます。ゆえに「地獄の罰」の、恐怖、不安、その未知の世界での苦悩あるいは苦難、不安に対して「切迫した救いの望み」がこの曲の曲調ととらえることができる、と解釈しています。
 Wikipediaで「聖書 地獄絵図」と検索すると下記の絵図にヒットしました。画像をクリックすると拡大されます。恐ろしい描写です。 
Herrad von Landsbergによる装飾写本形式の百科事典『Hortus Deliciarum』(1180年頃)に掲載されている地獄の絵

本題に入ります。
2.Domine Jesu
主、イエスよ)の逐語訳です。

Domine,   Jesu Christ,       Rex   gloriae,
主よ!    イエス・キリスト 大王  栄光の
     主、イエス・キリストよ、栄光の王よ!
libera  animas* omnium fidelium defunctorum
解放する 魂   全ての   信者     死んでいる
     全ての死せる信者の心を救いたまえ主、
de  poenis* inferni et  de   profundo lacu.
から  罰    地獄 と から  底のない  深淵
     地獄の罰と底知れぬ深淵から
Libera    eas     de   ore  leonis,
解放する 彼らを から  口  ライオン
     彼らをライオンの口から救いたまえ
ne                       absorbeat        eas     tartarus,
なりませんように 飲み込まれる   彼らを 深い闇
     深淵が彼らを飲み込んでしまいませんように
ne                     cadant  in  obscurum.
なりませんように 落ちる   に  暗闇
     彼らが闇の底に落ちてしまいませんように

   Chicott版では次の2行が省略されています。
    Sed signifer sanctus Michael

    そうではなく、旗手聖天使ミカエルが
    repraesentet eas in lucem sanctam.
    聖なる光の道に導いてくださいますように

3.Hostias(いけにえ)の逐語訳です。

Hostias  et  preces,     tibi,      
いけにえ と 祈り あなたに 
Domine, laudis, offerimus,   
主         讃え   捧げる
     主よ、いけにえと祈りをあなたに捧げます
tu           suscipe    pro     animabus illis.
あなたは 受入れる ために   魂         彼らの
     彼らの魂を受け入れてください
Quarum  hodie  memoriam  facimus.
~した人 今日    思い出す  私たち
     私たちが今日思いを馳せた人たちの
Fac    eas,       Domine, de  morte transire ad vitam.
お願い 彼らを  主     から 死   変える へ 生
     死を生へと転じさせてください

Tenner Soloのみ
Quam     olim   Abrahae    promisisti et semini ejus

のように かつて  アブラハム 約束した と 子孫  彼の
     かつて、あなたがアブラハムとその子孫に約束されたように

この逐語訳の引用元はこちらです
 

もう少し深い理解のために。英語との関連誌も含めて

※ Domine Jesu(主、イエスよ)

Jesu : Jesus(m, イエス)の呼格=イエスよ。
rēx : rēx(m, 王)の単数主格。us型第二変化名詞以外は主格も呼格も同じなので、この場合は=王よ。
glōriae : glōria(f, 栄光)の単数属格=栄光の。

līberā : līberō(自由にする、解放する)の命令法単数=解き放ってください。形容詞līber(自由な、制約を受けない)からの派生。cf.英語=liberty。
animās : anima(f, 空気、息をするもの、魂)の複数対格=魂を。男性名詞animusは「精神、心」。cf.英animal。
(”animal”は「動物」より「生き物、被造物」の意味が先に来ます。 人間も”animal”なのです。 “anima”「空気」「生命」からアニメーション”animation”ができました。 )
dēfūnctorum : dēfūnctus(m, 死者)の複数属格=死者の。
dēfungor(fungo=機能する、遂行する(cf.英=function)の否定)から。

de : 前置詞=~から。奪格結合。
poenīs : poena(f, 罰金、償い、罰、因果、苦難)の複数奪格。de poenīs=苦難から。cf.英=penalty。ペナルティ。
īnfernī : īnfernus(下に住む、地下の)の単数属格=下の世界の。男性名詞(陰府、地獄)の属格と捉えることも。(「タワーリング・インフェルノ」という映画がありました。)
profundō : profundus(深い)の単数奪格。cf.英profound。
lacū : lacus(m, 穴、洞穴、湖)の単数奪格=淵から。cf.英loch(スコットランドの湖)。

libera eās(解き放ってください、それらを)・・・前出。
ōre : ōs(n, 口)の単数奪格。de ōre=口から。
leōnis : leō(m, 獅子)の単数属格=獅子の。
(なぜ獅子が登場?・・・旧約聖書に「そして私は獅子の口から助けられた」第2ティモテオス4:17、また「私を獅子の口から救ってください」詩篇21:22などに獅子が記載がみられます。)

nē : 否定の副詞/接続詞。接続法三人称現在を伴うと~すべきでない。~せしめるな。否定命令は接続法完了と。
absorbeat : absorbeō(飲み込む)の接続法三人称単数現在(主語はTartarus)。
nē absorbeat=飲み込みませんように。cf.英=absorb。(absorbeatの原形は”absorbeo”「飲み込む」「飲み下す」。 (衝撃を飲み込むからショックアブソーバーというわけです。)
Tartarus : Tartarus(m, 下界、冥府)の主格。ギリシャ神話のタルタロス(カオスから生まれた、冥界の奥底にある奈落、またその神)から。

cadant : cadō(落ちる)の接続法三人称複数現在。
ne cadant=落ちませんように。
obscūrum : obscūrum(n, 闇 < obscūrus 覆われた、暗い)の対格。in obscūrum=闇の中へ。cf.英=obscure。

※ Hostias(いけにえ)

Soloの箇所です。
“hostias”は原形”hostia”で「いけにえ」。
(旧約では小羊などの動物を屠って(ほふって)捧げる生贄→
新約ではイエスが我々の罪のために生贄→
現在の教会ではイエスが私たち人類の罪のために十字架にかかって生贄となられたを思い出し感謝することを目的に聖餐式が行われます。パン=キリストの体と、ぶどう酒=十字架にかけられたときに流れた血を象徴としていただきます。なんとこの儀式で使われるパンは”ホスチア”と呼ばれます。余談ですが、未成年やアルコール中毒と戦う信者のために葡萄酒の代わりにぶどうジュースを用いられることもあります。 富岡)(旧約と新約の「生贄」を象徴する興味深い画像を2葉見つけました。上の画像は生贄となった小羊の血を玄関に塗っています。日本でいう厄払いです。下の画像は十字架に我々の罪の犠牲となられたイエス像、背中には体を象徴する薄いパンが、そして足元には流された血を表す液状のものが興味深い構造で描かれています。旧約の引用元はこちら 新約の引用元はこちら

SOLO
preces : prex(f, (特に神への)祈り、嘆願)の複数対格=祈りを。

laudis : laus(f, 称賛、賛美、賛仰)の単数属格=賛美の。
laudō(称賛する、ほめる)の関連。laudams tēで「(私たちは)あなたを讃えます」。
offerimus : offerō(捧げる)の一人称複数現在=(私たちは)捧げます。

tū : tū(あなた)の単数主格。ここでは“主”に向かって“あなた”といっている。(イタリア語と同じ使われたです)
suscipe : suscipiō(受け入れる、支持する)の命令法=受け入れてください。
prō : 前置詞=~の前に、~のために。奪格支配。
animabus : anima(f, 魂)の複数奪格。
illīs : 指示代名詞ille(あれ、あの)の複数奪格=あれらに。

quārum : 女性関係代名詞quaeの複数属格。animabusを受ける。
hodiē : 副詞=今日(hōc < hicこの + diē日)。
memoriam : memoria(f, 記憶、追想、思い出)の単複数対格=追想を。記念。facimus : faciō(作る、する)の一人称複数現在

合唱部分
fac : faciōの命令法。fac + simile「同じように作れ」からファクシミリ。
eās : 女性指示代名詞ea(それ)の複数対格=それらを。
morte : mors(f, 死)の単数奪格。de morte=死から。
trānsīre : trānseō(横切る、避ける、越える)の不定法。cf.英=transfer[動詞]〈…を〉〔…から〕〔…へ〕移す
vītam : vīta(生、生命)の単数対格。ad vītam=生へ。cf.英=vital、vitamin。 (ビタミンはここから来ています。)

Soloの箇所です。
quam : 関係代名詞quaeの対格。
ōlim : 副詞=かつて、その昔、いつか。
ille(あれ、あの)の古形ollusからで、離れたときを示す(未来にも使う)。 quamにAbrahaeが目的の属格として結びつく=アブラハムに。
prōmisistī : prōmittō(約束する)=約束した。

sēminī : sēminium(n, 子孫)=子孫の。
ējus =彼の。

Amenはフォーレ・レクイエムと同様にChilcott先生の独自の追加。「そうです」「まことに」「そうなりますように」と訳されます。

引用先
 ラテン語の文法に詳しいサイトはこちらです、
 加えてこちらのサイトも参照しました
 下記のサイトは簡易な文で読みやすい文体で聖餐式を紹介しています。

聖餐式とは?パンとぶどう酒を食べる儀式?【クリスチャンが解説】