佐渡裕と・・・ 一万人の第九

今年の第九は”Every thing NEW”とのテーマ。
その一番の表れが大阪城ホールを従来の横長ではなく縦長にしたこと。
これによりソプラノとアルトが佐渡裕の背中後方にという事態となりました。

話をその数日前に行われた佐渡練習にタイムスリップします。
私は偶然練習場の楽屋廊下で佐渡裕とすれ違いました。
富「おめでとう」
佐「何が?」
富「トーンキュンストラーの音楽監督就任のこと」
佐「ウフフ」
これだけの会話。これで充分なんです。
かつては関西二期会で同じ副指揮者という立場で、苦労を共にした仲間。
彼との一番の思い出はお互いに蝶々さんの本番の時に
同じホール後方の「照明室」に入り込み舞台上の合唱団のために、
彼は下手側、私は上手側からペンライトの先に赤いテープを巻きつけて
指揮する仕事が与えられました。
2時間の本番とはいえ、私たちの仕事はトータルでも30分ほど。
いろんな話をしました。
そんな中、彼の一言が今日の彼に結びついているのです。
その内容は二人だけの秘密にしておきます。

その佐渡練習の時のことです。
私が簡単な発声練習を終えて、佐渡裕を舞台上に呼び込みました。
彼はマイクをとるや否や
「富岡さんとも長いおつきあいです」だって。
こんなこと彼の第九をお世話するようになって10年にもなろうとするのに
初めての事でした。

本番前のリハーサルの時に話を戻します。
最終稽古が始まりました。
私は会場を歩き回り、彼の指揮がどう見えるか、
オーケストラの音がどう聞こえるかチェックして回りました。
まさにオペラの現場での副指揮者の役割です。
彼の後ろに配されたソプラノは彼の指揮が見えません。
だって大きな体の内側や右側でビート刻まれたら、
左後方から見えるわけがありません。

彼がオーケストラを中断した時に私は舞台に走り寄りました。
「佐渡さん、ビートを肩の上で示して。みんな不安。」
彼はそのあとの練習も本番も見事に「私のアドヴァイス」を守ってくれました。
ここが彼のすごいことの一つです。

あと一つ。オーケストラの音が女声部には聞こえない問題。
これは演出の小栗さん(小栗旬のご尊父様)に申し上げたところ、
同じ意見とわかり意気投合。
本番の日のリハーサルでは見事にこれが解決。
“Every thing NEW”の演奏会は、
佐渡裕が肩の上で振ってくれたことと、
音響さんの見事な手直し、
この2点があっての成功となりました。

全ての演奏が終わり、舞台上に私達合唱指揮者も並びました。
袖に引っ込んで、ソリストのカーテンコールに続いて、
佐渡裕は彼のお気に入りという仲間由紀恵と手をつないでコール。
その間、私は小栗パパと勝利の握手。
小栗パパ「合唱指揮者のみなさんコールです。舞台上に出てください。」
佐渡が仲間由紀恵の次に手を高々とつないで出てきたのは、
私だったんです。