富岡健先生プロデュース
ーー神聖な空間、そして敬虔なフォーレ・レクイエムーー

寄稿 M.U(フラワーコーラス



富岡先生の信仰と比類稀なる音楽プロデュースのお力で、今回またこのような企画の演奏会が開催され、その神聖な空間の中で、心からの祈りと共に、演奏されたレクイエムは、震災復興を願い、尊い命への鎮魂の祈りと歌声と調べがまさに一つとなって、本当に天上に届いていくような感覚で、心の底から深い感動に包まれました。

 

会場となった大阪カテドラル聖マリア大聖堂は、大阪市中央区玉造にあるカトリック玉造教会の大聖堂で、創立は1894年、敷地が細川大名家の屋敷跡だったそうで、大聖堂の入口の前には右に細川ガラシャの石像が、また左には高山右近の石像があり、日本のキリスト教伝承の歴史が頭をよぎりました。

 

 

  


 

そして、聖マリア大聖堂の中に入ると、聖堂の正面には「栄光の聖母マリア」の大壁画があり、まずそのマリアの姿に目を引き付けられてしまいました。

 

右に細川ガラシャ、左に高山右近が跪き、聖母は着物のような和の衣を纏って、こんな聖母の絵を見たことがなかったので、戦国の世のキリシタン達はこのようなマリア像をイメージしていたのだろうかとしばし壁画に見とれていました。(堂本印象 筆)

 

聖堂の椅子だけでは足らず、パイプ椅子も準備されて、座席は900席ほど、開演前には聖堂は満席に。今回の演奏の企画には、フォーレレクイエムのLibera Meの斉唱箇所を全員で起立して歌いたいという富岡先生の願いがあり、開演前の14:15からは、パンフレットの裏表紙に掲載されたLibera Meの楽譜を先生とソリストの先導で、皆で歌う練習が行われ、15時からの本番を心静かに待つこととなりました。

 

今回の演奏会は、カトリック大阪大司教区の聖堂であるこの大聖堂で、震災孤児の為のレクイエム演奏会が行われるという意義だけでなく、キリスト教のいろいろな教派を超えて、共に祈りを捧げようというエキュメニカル運動の具現化も目指したいということで、開演にあたり、この演奏会の開催の許可をされた大阪大司教区の池長大司教がご挨拶をされました。

 

そして、5人の司祭、神父、牧師と、オルガニスト、弦楽奏者らが入場され、Ⅰ部のオルガン独奏(Jean Langlais作曲の「中世組曲」より前奏曲(入祭)とティエント(奉納))が、荘厳な響きで始まり、その深いオルガンの音色に心惹きつけられていきました。

続いて、日本聖公会の内田望司祭による震災復興への最初の祈りが捧げられ、会場皆心静かに、祈りの言葉を聞き、バッハの「G線上のアリア」の弦楽奏が清らかに奏でられ、これから始まるFaure REQUIEMの美しいプロローグとなりました。

 

ここで、

Ⅱ部、フォーレ レクイエムの演奏者が入場、今回の演奏会主催者である合唱団大阪コンソート約80名と一般公募による約40名の総勢120名の合唱団と、ホルンも加わっての室内管弦楽団オルフェウス大阪が、聖母の大壁画の前の祭壇に並ばれました。

 

 

 (開演前に撮影。祭壇後方の階段に120人の合唱団、手前に管弦楽団とオルガンの配置)

 

お二人目の日本福音ルーテル神戸教会の松本義宣牧師が、「Kyrie Eleison 主よ、憐れんでください」震災犠牲者への鎮魂の思いを祈りにこめて、捧げられ、

1.IntroitKyrie が富岡先生の魂の籠った一振りから始まり、弦の深い音色に、静かに整った合唱のRequiem aeternamの歌声が、続いてのテノールの音色も柔らかく、ソプラノも美しく通って、全声部のハーモニーもしっかりしていて、今日の合唱団はレベルが高いとKyrieで期待が膨らみました。

2.Offertorie アルトの深い女声部とテノールの高音部のカノンも綺麗に寄り添って、豊かな岸俊昭氏のバリトンソロ、全パートでの「Amen」に思わず、両手を組んで祈っていました。

 

 

(聖堂のステンドグラス マリアの受胎告知とイエスの生誕)

(イエスと弟子たち、ご復活)

 

お三人目の祈りは、日本基督教団都島教会の井上隆晶牧師、「Agnus Dei 神の子羊、尊い命が犠牲になった魂にどうか安息を与えてください」会場も祈りの言葉に皆心傾け、祈りが歌を通して奏でられていくのを、体感していました。

 

3.Sanctus バイオリンの美しい音色と、ソプラノとテノールの柔らかで、天上の世界をイメージさせる響きに、思わず合唱団の後ろの大壁画の雲の上の聖母の姿に目が釘付けになり、ホルンの高らかな音色に光に満ちた天上の世界が浮かんで、感動していました。

そして、4.Pie Jesu ガハプカ奈美さんのソプラノソロの祈りに満ちた歌声は、聖母マリアの天からの声のように思えて、胸にじんと沁み込みました。

5.Agnus Dei 優しいメロディーに引き込まれながら、始まった合唱は、どんどん祈りが高揚して、見事に豊かなハーモニーの響きになって、心に迫ってきました。

 

4人目のお祈りは、カトリック池田教会の畠基幸神父、そのお言葉のひとつひとつが会場皆の祈りとなって、神の御胸に届きますようにと、聖堂にいる皆さんの気持ちがしっかり一つになっているように感じました。

 

6.Libera Me 開演の前の全員合唱練習の時、富岡先生がこのLibera Meの曲の中には、訳詞に目を通してもらえれば、奇しくもこの大災害への脅威と祈りが現れていて、この祈りを皆さんと一緒に捧げたいのですと言われ、Libera Meをこんな思いで歌うのは初めてで、会場の皆さんと共にひとつの気持ちで祈りを歌えることに深い感謝と感動を覚えました。

バリトンソロの心からの祈りの歌声、そして合唱の歌声もより一致と迫力を帯びて、「Dies illa,dies irae」の声には津波と地震と原発への脅威が込められているように伝わってきました。

そして、心静かに、平安を祈る全員斉唱になって、会場全員が起立して、「Libera Me, Domine 」と歌声を届け、その聖堂を包み込む歌声は、あたかも天上に届いていくように清らかな音色のように感じました。

7.In paradisum 天使の歌声のようなソプラノの澄んだ響きの歌声に導かれ、ハープの音色と共に、どうか被災者の魂が憩われますように、親を失い失意のどん底にいる孤児たちに心の平安がありますようにと、皆で祈りながら、最後の「requiem」の一節、清らかな合唱団の歌声と弦楽の音色が富岡先生の指先の繊細なタクトで、静かに荘厳に締めくくられました。

 

REQUIEMの最後の祈りは、日本バプテスト連盟の中島義和牧師によって、穏やかな温かな祈りが捧げられました。

 

この歴史ある聖母マリア大聖堂で、キリスト教の教派を超えて、尊い祈りと共に、フォーレのレクイエムの豊かな合唱が演奏されて、日本ではなかなかこのような立派な聖堂での宗教曲の演奏の機会もなく、ほとんどがホールで演奏されることが多いので、観客としてこんな貴重な体験ができたことに心から感謝します。

また客席から目にうつる光景は、バックの壁画にある雲の上にたたれる聖母マリアの大きなお姿のすぐ下に合唱団の皆さんが並ばれて、その歌声は、本当に天に届いていくかのように感じました。

全てがとても神聖で、これこそがREQUIEMの祈りの演奏なのだと、深く感動した次第です。

 

Ⅲ部には、主催の大阪コンソートメンバーによるフォーレの代表作品の「ラシーヌ賛歌」が演奏され、そして、最後のⅣ部には、富岡先生がNHKのテレビ番組で耳にされ、感動を受けて、是非世の人々に歌ってほしいという思いから、作曲者の谷本智子先生に連絡をとられ、編曲の許可を得て、合唱曲となった「小さな幸せ」、今回は谷本先生始めご家族皆さんも会場にお越しになり、また中村典子先生によりオーケストレーションされた「小さな幸せ」の初演奏となり、聖堂を包むその歌声は温かく、優しく、演奏会が絆の心で締めくくられたように感じました。

 

感動的な興奮の中で、聖堂のドアを出たところで、仲良しのFrisches Eiのメンバーのお一人のHさんに出会い、「ま~、いらしてたんですか?」と声をかけたら、「私はこの教会で洗礼を受けた信者で、父のお墓はこの墓地にあって、今日はお墓参りもして、この演奏を聴きました。」と言われ、いろんなご縁が繋がっているのだなぁと知りました。

 

聖堂の外は小雨が降っていましたが、心は本当に温かく、また音楽の持つ力を教えてもらいました。

 

富岡先生、この一大企画のプロデュース、そして祈りと願いを込めて振られた渾身のタクト、本当に素晴らしかった、心からおめでとうございます。

 

主催で大変な尽力された大阪コンソートの皆様、そしてこの演奏会の趣旨に賛同し、賛助出演され、見事にハイレベルな合唱を支えられた皆様に、心からの拍手を送ります。

 

これからも富岡先生の自由な発想による、音楽のいろいろな挑戦に、大いなる期待をしています。

 

感謝のうちに…

M.U.